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ものづくりのまち「鯖江」を訪れて(3)完〜めがねづくりの現場・プラスチックフレーム編〜

〈ものづくりのまち「鯖江」を訪れて(1)〜産地がかかえる「課題」と「想い」〜〉から始まった鯖江探訪シリーズも、いよいよ今回が最後。第1回では、「めがねの聖地」とまで呼ばれるようになった鯖江のめがねの歴史から、いま鯖江が抱えている課題と取り組み、作り手の想いを紹介。前回の〈ものづくりのまち「鯖江」を訪れて(2)〜めがねづくりの現場・メタルフレーム編〜〉からはめがねの製造工程と、そこで触れた現場の想いを紹介。今回はその2回目プラスチックフレーム編だ。

鯖江 めがね メガネ 眼鏡 さばえ プラスチックフレームとは、アセテートやセルロイドを原料として作られたものを指す。現在は、そのカラーバリエーションの豊富さと加工のしやすさから、アセテートのフレームが主流だそうだが、中からにじみ出てくるような独特な艶と、その存在感を持つセルロイドのフレームも魅力的だ。
今回紹介する有限会社谷口眼鏡は、そのプラスチックフレームの一貫生産メーカーで、1996年にはオリジナル自社ブランド『TURNING』を立ち上げ、その製造販売も行っている。玄関を入るとアセテートのシートで創られた「花」のオブジェが出迎えてくれた。谷口社長に工場を案内してもらい、その製造工程を見せてもらった。プラスチックフレーム1枚あたりの工程数は150〜200といわれている。金属フレーム同様、職人の手と目が欠かせないその工程を、今回も簡単な流れで紹介していく。

 製造工程

1.企画・デザイン・設計
企画を担当する人が、当感性・トレンド・機能面を考慮しながら何度も図面を書き、型を起こす。

2.カーブ付け
プラ枠の元となるシート状の樹脂に熱を加えプレスすることで立体的な形状にする(写真上はさらに内径を切削した状態のもの)。
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3.切削加工・パット貼り
数値制御された機械で高精度に切削し、日本人の鼻に合う形に作られた鼻パットをひとつひとつ手で溶着させる。
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4.ヤスリがけ・研磨・バフ磨き
職人の技で、ひとつひとつ丁寧にヤスリがけしていく。さりげなく、それでいて掛けやすいめがねは、いかにこの作業をしっかり行うかにかかっている。その後のバフ磨きには全行程の中で一番作業時間をかけ、深みのある艶に磨き上げていく。
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5.蝶番込み・組立/合口カット
位置や角度を見極めて蝶番(ちょうつがい)を埋め込む重要な作業工程。蝶番の取り付け方法としては、現在はフレームに直接埋め込む方法が主流だが、フレームに小さな穴を開けてピンを打ち込んで止める「かしめ蝶番」という伝統的な技法も継承されている。その後、フロントとテンプル(つる)を組み立て、余分な部分をカット。いかに隙間なく仕上げるかが職人の腕の見せ所。
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6.合口のヤスリがけ・仕上げバフ磨き・印字・検品
フロントとテンプルの合わせ部分がフラットになるようにヤスリで仕上げる。その後、職人の手で1枚1枚丁寧に磨き上げ、ブランド名などを刻印。最後にゆがみなどの調整と最終チェックをし出荷。
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作り手が想いを込めて作れば、その想いは手に取った人にも伝わる

鯖江 めがね 眼鏡 メガネ さばえ 谷口眼鏡工場に足を踏み入れた瞬間、想像していたよりもコンパクトなことに驚いた。また、人数も10人前後で「アットホームな町工場」という言葉がピッタリな、そんな工場だった。おそらく一番広いと思われる、およそ20畳ほどの作業場に「職人の技」が集結していた。純チタンの蝶番とワッシャーを組み込む人、バフ磨きをする人、1本1本丁寧に刻印を入れていく人たちが、それぞれの手で、時間の掛かる作業をひとつひとつ丁寧に、黙々とやっていた。そして、それらの作業をしていたのは、想像していたよりも若い人たちだった。

鯖江 めがね 眼鏡 メガネ さばえ 谷口眼鏡時が流れても受け継がれていく伝統や職人技。技術を継承した若い職人達が「めがねを掛ける楽しみを与えたい」という想いで、「めがねを掛ける人を思い浮かべながら」作業をする。一方で時代に合わせた技術の工夫も常にされており、谷口眼鏡の特徴でもある、バネ性と加工性を考えた純チタンとβチタンのジョイント芯や、純チタンをデザインのポイントとなる四角鋲にも使用するなど、軽さとフィット感を追求し掛け心地にもこだわる。
受け継がれてきた伝統の技に新しい技が融合し、そこに作り手の想いがプラスされ、新しい商品が生まれる。それは見た目の派手さやインパクトだけにとらわれていない、あたたかい作り手のぬくもりが伝わってくる商品だ。
そういった背景は、「アイウェア・オブ・ザ・イヤー」のメンズ部門で2年連続受賞という成果にも繋がっているのだと思う。

鯖江 めがね 眼鏡 メガネ さばえ 谷口眼鏡ここ数年、産地再生に向けて様々な取り組みをしてきている鯖江のめがね産業。(詳細は第1回を参照)行政も積極的に取り組み、経営者達による勉強会組織も発足し、鯖江のものづくりに惹かれた移住者や、家業を継ぎたいと鯖江に戻ってくる若者も増えてきている。たしかに産地再生には恵まれた事例なのかもしれない。しかし現場もそれに呼応するように、経営者からも若者からも、めがねづくりに対する熱い想いがひしひしと伝わってくる。作り手が想いを込めて作れば、その想いは手に取った人にも伝わる。それがどこで作られていても、良いものは手に取った人の心を揺さぶる。
「あっ、これやっぱり鯖江か〜! という言葉をあちこちで聞かれるようになるのが理想。そのためにも常にウソのないものづくりをしていかなければならない。」と語る谷口社長。
鯖江という名前だけが先行するのではなく、想いを込めて作っためがねが、掛けた人の心を揺さぶり、その結果「やっぱり鯖江か〜!」という言葉が溢れた時、「聖地」の座は揺るぎないものになるのかもしれない。100年余の歴史を持つ鯖江のめがね産業は、新しい100年に向けて変身を遂げている最中だ。(文 地元びいき・津久井卓也)

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案内をしていただいた
有限会社谷口眼鏡 谷口社長

取材協力:鯖江市 産業環境部 商工政策課、有限会社谷口眼鏡


2014/2/26 更新

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