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ものづくりのまち「鯖江」を訪れて(1)〜産地がかかえる「課題」と「想い」〜

福井県鯖江市。人口7万人弱、面積約85km²という、けして「大きい」とは言えないこのまちに、日本を代表する地場産業がある。めがねフレームの国内製造シェア約94%を誇るめがね産業だ。
いまや「めがねの聖地」とまで呼ばれるようになり、イタリア、中国と並び世界を代表する産地の一つへと発展した鯖江のめがね。その100年余の歴史と、いま鯖江が抱えている「課題」と作り手の「想い」を訪ね、鯖江へ赴いた。

鯖江市

■歴史とともに進化してきた「伝統」
明治38年に創始者と呼ばれる増永五左衛門が、現在の福井市において農閑期の副業にと大阪や東京から職人を招き、村人たちにめがねの製造技術を伝えたことが、めがねづくりの始まりとされている。
鯖江においては、市内から車で15分ほど山間部に行ったところにある河和田地区に住む青山彦左衛門が、増永五左衛門と従兄弟どうしであったことから技術を取得し、明治40年の春、自宅(農家)の土間から始めたといわれている。
当時は「帳場」とよばれる増永一期生を責任者とした制作グループをいくつも編成し、徒弟に修行させながら仕事をまとめていく仕組みのもと眼鏡が作られていた。そして帳場ごとに職人が切磋琢磨することで分業独立が進み、一大産地へと発展。
昭和50年代には世界で初めて「チタン合金」や「形状記憶合金」製のめがねフレームの商品化に成功。以降も「マグネシウム」製のめがねフレームを開発するなど、世界トップの技術産地としての地位を確立した。
しかし、地場産業の衰退は鯖江にも見られ、製造技術の海外流出、価格破壊による業界不況、熟練工の高齢化による後継者不足といった技術継承の問題など、様々な問題が絡み合い市場の縮小傾向は免れなかった。

鯖江看板
■「ものづくり」に特化してきたことで「売る」ことが苦手に

実は、今回の取材を行くことに決めた一番の理由は、自分自身がめがね好きであり、機会があったら「鯖江」で「鯖江」のめがねを作ってみたいと以前から思っていたからなのだ。
北陸自動車道沿いの山腹にある「HOLLYWOOD」を彷彿とさせる、「SABAE」と書かれた巨大看板。市内に入ると、屋上の真っ赤なめがねフレームがランドマーク的な「めがねミュージアム」が出迎えてくれる。「めがねのまちSABAE」を前面に出したモニュメントがいたるところに見られ、テンションも上がってくる。
市内を歩き、ふらっと立ち寄った眼鏡店で店主に「Made in Japan ではなく、Made in SABAEと刻印されている眼鏡はありますか?」と聞いてみた。
すると「ああ、Made in Japanというのは、ほぼ鯖江産ということになるので、あえて刻印はしてないんです」と言う店主の言葉。そこで冒頭でも触れた「フレームの国内製造シェア約94%」のことをはっと思い出し、言われるまでもないことに気付いた。とはいえ鯖江ブランドを知るめがね好きとしては、何らかの「鯖江の証」が欲しかった。
さらに店主は、SABAEブランドが前面に押し出されていない要因に「OEM依存型の産地形態」という事情もあるということを教えてくれた。そして、原産国表示のルール上、Made in Japanという刻印が義務化されているということも。
国内製造シェア94%のうち、8割以上のめがねフレームがOEM受注されている。これまで製造と技術開発のみに特化してきた鯖江の眼鏡産業の中で、自社で直接販路を持つ企業はわずか。OEM主体でやってきたことで、企画・デザイン力の不足や産地の知名度不足という問題を抱えていた。
※OEM:発注元企業のブランドで販売される製品を製造すること。

■「つくるだけの産地」から「売れるものを創り売る産地」を目指して
これらの問題を解決すべく、市では平成20年度からの2年間で「地方の元気再生事業」を利用して、後継者育成に向けた「ものづくり教育」や、「オリジナルブランド構築」など様々な実証実験を行った。ファッションショウやタレント、有名セレクトショップとコラボすることで事業をPRし、メディアに取り上げてもらう策を進めてきた。
さらには、地元の学生達とともにPRサイトも立ち上げ、次第にメディアへの露出が増えていき、めがねブームも追い風となって知名度は徐々に上がってきた。
平成23年には、産地SABAEのブランド化を望む若手経営者達による勉強会組織SBW(Sabae Brand Working group)が発足。若手経営者の「意識改革」や「スキルアップ」をはかり、産地再生に向けた体制を構築することで、産地製品の付加価値向上、産地全体のイメージ向上を狙った。
そうした取り組みの結果、谷口眼鏡の「turning」ブランドが2年連続「アイウェア・オブ・ザ・イヤー」のメンズ部門を受賞、チタン精密部品加工が本業の西村金属が「ペーパーグラス」でGOOD DESIGN AWARD 2013のグッドデザイン・ものづくりデザイン賞を受賞し、「成果」が形となって現れ始めた。いずれも、もともとあった技術力にデザイン・ブランド力がプラスされた証だ。

竹内光学

■若者の「あがき」が産地再生へのカギ?
少しずつではあるが着実にデザイン・ブランド力で戦える土台ができつつある。そして、鯖江のものづくりに惹かれ、移住してくる若者の増加もまた、その成果のひとつではないだろうか。家業を継ぎたいとUターンしてくる若者も少しずつではあるが増えているという。
谷口眼鏡の谷口社長がおっしゃっていた言葉が印象的だった。
「鯖江の若者はあがいているんです。現状は暗くても、気持ちは明るく!」
若い人を応援する土壌がある地域、行政も積極的に一緒になって取り組んでいる地域は地場産業の再生がやりやすいと思われがちだが、出る杭はやっぱり打たれるのが世の常。
それでもあがいて、あがいて、そうした結果生まれたものには、その地域の若者達の思いがたくさん詰まっている。たとえSABAEという刻印がなくても、そこには100年余の歴史と作り手の熱い思いが込められている。

谷口眼鏡取材協力:鯖江市 産業環境部 商工政策課、竹内光学工業株式会社、有限会社 谷口眼鏡

(文・写真 津久井卓也)

シリーズでお読みください!
ものづくりのまち「鯖江」を訪れて(2)〜めがねづくりの現場・メタルフレーム編〜
ものづくりのまち「鯖江」を訪れて(3)完〜めがねづくりの現場・プラスチックフレーム編〜


2013/12/24 更新

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