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日本から消えてしまった意味ある地名

誰でもそれぞれの地元を持っています。地元びいきの仕事に関わらせていただいてから、日本各地の地元について書いてきましたが、今回は私の地元について、少しネタにしてみようと思います。あ、名乗り遅れました、黒川豆と申します。黒川というのは、私の生まれ育った村の地名でありまして、ペンネームにちょいと使わせていただいています。なぜ黒川という名前で執筆活動をしているかというと、地元びいきなわけです。実は、市町村合併により黒川村という地名はなくなってしまいました。黒川という地元の名前を気に入っていたので、もったいない! と思って勝手に拝借している次第です。
平成の大合併によって、日本の市町村数は約半分となったと言われています。地元の名前がなくなった日本人が相当数いるということになります。私のようにもったいないと思った人もいることでしょう。そこで今回はいくつかの地名の由来について、考えてみようと思います。まずは「黒川」について。

 さかのぼること「日本書紀」

新潟県の北部、下越地方に胎内(たいない)市という人口3万人ほどのところがあり、ここが旧黒川村。2005年に中条(なかじょう)町と黒川村が合併して、胎内市となりました。胎内市の地名の由来にはひとまず置いておいて、両自治体に胎内川が流れているのでその名前をとって胎内市となったとのこと。
平成の大合併では、日本各地で市町村合併がありましたが、地名問題は悩みどころだったようで、中心となる大きな自治体の地名を取ることもありますが、だいたいは、新しい地名をつけましたね。ひらがなが増えたことと、ついにカタカナ名まで出てニュースになったりしていました。

「黒川村」に戻ります。黒川の塩谷(しおだに)という地区は山の中に油が溜まった池のようなもの(油壷)がいくつもあります。何やらそこは、日本最古の原油湧出地だそうで、太古の昔から現代まで原油が湧き続けています。「日本書紀」には、天智天皇の7(668)年に、「越国、燃ゆる土燃ゆる水を献ず」と記述されています。この燃える水は臭水(くそうず)と呼ばれていた原油で(臭かったんでしょうねぇ)、天皇に献上したことが記されていました。古くから黒い原油が流れていたことから黒川という地名がついたそうです。尚、中世になってこの地域を支配していた和田氏も、黒々とした燃える水が流れる川から姓を改めて黒川にした、と伝えられています。「黒川の臭水」は、平成4年に新潟県指定天然記念物となりました。

黒川の臭水の油壷(胎内観光情報ブログより)

黒川の臭水の油壷(胎内観光情報ブログより)

あらためて自分のふるさとの地名を考えてみて、地名からその土地の歴史を知ることができ、軽い興奮とともに、” 地名というものは、大変興味深い”と再認識することができました。
あ、そうそう胎内川ですが、夏になると川の水が枯れて地下水になって流れるところが母親の胎内に似ているからという説を聞いたことがあります。しかしそれは後で当てはめたストーリーのようで、元はアイヌ語から来ているとのこと。ナイは「川」、タイは「森」、森を流れる清い川という意味でそう呼ばれたというのが有力な説でした。新潟でなぜアイヌ語? というところは、また別のテーマで調べてみようと思いますので、今回はご勘弁を。

1Dayトリップで見る消えた地名

ゴールデンウィークに、現在の地元吉祥寺(東京都三鷹市)から黒川(新潟県胎内市)まで、各駅停車の旅をしました。電車の乗り換えは6回、かかった時間は8時間、通った県は4(東京、埼玉、群馬、新潟)、止まった駅は数知れず……。
いつもの帰省では、上越新幹線を使います。停車しない駅があったり、長いトンネルがあったり、リクライニングシート快適すぎて居眠りをしたりで、窓の外の地名を見ることなどほとんどありません。今回、各駅停車でガタガタゴトゴト進んだことで、車窓から景色と共に様々な駅名を目にしました。しかし、駅名が必ずしも現存する地名ではないこともあるようで……。日本全国でなくなってしまった地名は相当数あるので、この度は、勝手ながら私の帰省ルートの中に限定して綴らせていただきます。

「JR中央線」
●吉祥寺 きちじょうじ(東京都三鷹市)
地名はなくなっていませんが、「吉祥寺」というお寺はありません。吉祥寺というお寺は、江戸時代初期、文京区水道橋付近にありました。1657年の明暦の大火で寺は全焼し現在の文京区駒込に移されました。吉祥寺の門前に住んでいた住民たちは家を焼かれたため、武蔵野の原野に移り住み、開拓して村を作ったそうです。それで、武蔵野に「吉祥寺」という地名が残りました。1664年の家数は64件。” 東京で住みたい町No.1”などと言われる街も、農民の開拓の歴史を残す地名だったのですね。
●淀橋 よどばし(東京都新宿区)
新宿に本拠を構える大型家電量販店「ヨドバシカメラ」はなぜその名前? ルーツをたどると、新宿区淀橋に設立された淀橋写真商会が出てきました。1947年に新宿区が誕生する前は、その辺りは淀橋区でした。新宿区となってから、都市化が進み、ビルが立ち並び、1970年に淀橋は西新宿という何となく記号的で味のない地名にとって代わられ、消滅してしまいました。「淀橋」という地名はなくなりましたが、ヨドバシという音は、抜群の知名度を誇っています。

「JR高崎線」
●群馬町 ぐんままち (群馬県高崎市)
群馬県群馬郡群馬町というトリプル地名だったそうで。思い出すのが、鹿児島県志布志市志布志町志布志。志布志市志布志町志布志は健在ですが、群馬県群馬郡群馬町は平成の大合併で高崎市に吸収されてしまいました。「群馬」といえば県名であって、高崎市群馬⚪︎⚪︎町となると違和感があると考えられたらしく、市の後に群馬とつく地名は消滅しました。早口言葉のような地名がなくなってしまって、少々残念です。
●月夜野町 つきよのまち (群馬県みなかみ町)
昔ニュージーランドに滞在していた際、最初にホームステイした家の住所が、moon shine valley road でした。なんて美しい地名だろうと感動し、未だに覚えています(それから何度か引っ越しましたが、この地名だけ忘れていません)。直訳すると「月が輝く谷の道」となるでしょうか。群馬県の「月夜野」という地名を見たときも、同じ感動を覚えました。平安時代の歌人源順(みなもとのしたごう)がこの地を訪れ、三峰山から昇る月を見て「よき月よのかな」と歌を詠んだと伝えられ、それが月夜野の地名の由来だそうです。これは伝承ですが、それだけ美しい光景が見られる土地だったのでしょう。2005年に月夜野町、水上町、新治町が合併して「みなかみ町」となり、「月夜野」はなくなってしまいました。本当に美しい地名なので、心から残念に思います。moon shine valley roadはまだ現存しているかしら。
●水上町 みなかみまち (群馬県みなかみ町)
前述の合併によって、「みなかみ町」となり、昔からあった「水上」という地名の由来もわからなくなってしまいました。水上は利根川の水源を意味するものだそうですが、「みなかみ」というひらがなでは何も解読できないですね。JR水上駅

「JR上越線」
●高田市 たかだし (新潟県上越市)
戦国武将上杉謙信で有名な春日山城の南に築かれた高田城は、京都に真似て作ったという大きな城下町を持っています。江戸時代は北国街道の宿場町として栄えた商業都市でした。明治40(1907)年にオーストリア人のレルヒ大佐が1年あまり滞在し、日本にスキーを伝えたスキー発祥の地としても有名です。ちなみに、レルヒ大佐は、現在、新潟県を代表するゆるキャラとして、県内外の人に愛されています。新潟市・長岡市に次いで新潟県で3番目に市に昇格した「高田市」ですが、1971年に「上越市」が誕生することで消滅してしまいました。調べて面白いと思ったのが、全国に多く存在する「高田」の地名。全国各地の「高田町」が市政施行によって市に昇格する際、新潟県高田市と同じ地名を避けるため「陸前高田」(岩手県)、「豊後高田市」(大分県)、「大和高田市」(奈良県)とわざわざ冠をつけたそうです。ところが冠なしのピュア「高田市」がなくなってしまったという、なんとなく寂しい現実がありました。

高田に滞在したレルヒ大佐(新潟観光NAVIより)

高田に滞在したレルヒ大佐(新潟観光NAVIより)

地名の意味や歴史を探るヒントは駅
みなさんの地元の最寄りの駅名は、地名と一致しますか?地名の歴史は駅名にヒントあり

今回の各駅停車ガタガタゴトゴト旅で、旧地名、その土地の歴史を語ってくれる地名は、駅名に隠されているということに気がつきました。市町村合併で行政上、そして地図上の地名は変えても、駅名までは及んでいないからです。今回は、たった1日の旅で自分が気になった地名だけについて書きましたが、地名は、深い、とにかく深すぎる! なので、少しでもおっ? と興味を持たれた方は、ぜひ自分の気になる土地の地名について調べてみてください。参考資料もご紹介しておきます。どれも手に取ったら背中を丸めて読みふけってしまうくらい面白かったです。
旧地名に魅了された私はこれからも、黒川豆というペンネームで仕事をしようと固く決心しました。(文・写真 黒川豆)

(参考資料)
「地図から消えた地名」 今尾恵介(東京堂出版)
「日本の地名」 浅井建爾(日本実業出版社)
「日本人として知っておきたい地名の話」 北嶋廣敏(毎日新聞出版)
「こうして新地名は誕生した! 」 楠原佑介(KKベストセラーズ)
「地名の魅力」 谷川彰英(白水社)
「47都道府県・地名由来百科」 谷川彰英(丸善出版)

 

 


2016/5/30 更新

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