• Facebook
  • Twitter
  • 地元びいきとは
  • 問い合わせ

春の「旬」たけのこを食べて75日寿命が伸びる?

行ってきましたシリーズのようになっておりますが、ワタクシ黒川豆は旅人ではなく、牛丼で言ったら並盛のライターです、こんにちは。そうそう、行ってきました鳥取県の伯耆(ほうき)町。伯耆町は、大山(だいせん)山麓にある人口1万人強の町。面積は140平方キロメートル弱で、東京ドームにして3000個分だそうです。東京ドームで満員御礼が出ると5万5000人なので、1個分に満たない人々が3000個分のスペースでゆったり暮らしているということですね。

大山といえば、「鳥取の人は大山をものすごく好きなんですよ」と鳥取県民がよく言うように、県民の魂に響くアイデンティティーのつまった山なのです。威風堂々たるたたずまいはお見事。富士山と同じ独立峰である大山を正面(私が観た場所を勝手に正面と仮定すればの話し)から見て、心からかっこいいと思いました。さて、そんな大山の裾野は清らかで豊かな水に恵まれているため、大手飲料メーカーの水(たとえば、C社のいろはす)を製造する工場などあります。また、県内No.1というA4~A5ランクのゴージャスな和牛が飼育されています。飼育されているというより、悠々と和牛ライフを送っているといった様子でしょうか。伯耆町

道の駅ならぬ山の駅

大山山麓に、「山の駅大山望(だいせんぼう)」という場所があります。道の駅はよくありますが、ここは山の駅。鳥取県の名産品など空港や街なかのお土産やさんで売っているいわゆるお土産物から、野菜や山菜といった日替わりの新鮮な品々の直売もしています。直売品には、値段と一緒に生産者の名前も明記されています。全国の道の駅などでは、顔は見えないけれど、どんな人が作ったか採ってきたかがわかるこのような商品は安心感を与えるので人気がありますね。

さて、私はこの山の駅で何を買ったでしょうか。真っ先に飛びついたのが、朝採れのたけのこ。新鮮で立派なたけのこが安価で、あく抜き用の糠がおまけについていました。値札シールを見ると、私の家の最寄りのスーパーマーケットの半額以下でした。これは買いますでしょう。その日、飛行機で東京まで帰らなければいけないとわかっていても、即買いしました。頭の中では、たけのこご飯、土佐煮、焼きたけのこ、味噌汁にもいいなぁ~など、おいしいたけのこ料理がぐるぐるです。それから、私の手のひらほどの大きさの原木しいたけも購入しました。いやはや豊か〜。

「旬」はたったの10日間?

なぜこんなにたけのこに惹かれたのかというと、それは「旬」だから。料理番組でもたけのこが取り上げられているし、スーパーや八百屋の店頭にもたくさん出回っています。現代は、高いお金を払えばいつでも何でも手に入ってしまいますが、やはり味も値段も「旬」のものにはかないません。

ところで、当たり前のように「旬」という言葉を使っていますが、この単語はそもそもどのような意味を持つのでしょうか。調べてみると、「旬」とは10日間のことを示すそうです。「上旬」「中旬」「下旬」というのが、1ヶ月の30日間を3つに分けて表しているので、「旬」は10日間というわけです。えーーー、たったの10日? ということは、「旬」というのは、とっても貴重な期間なのですね。だからこそ「旬」のものを食べたいと思うのですね。たけのこ

75日寿命が伸びる

「旬」がはじまるとき、そのはしりを「初物」と呼びます。日本では「初物を食べると寿命が75日伸びる」などという言い伝えがありますが、それは何ゆえでしょうか。現代は、平均寿命が男女ともに80歳を越えているので、75日程度伸びてもたいした問題ではない気がしますが。初物は季節ごとに様々あるので、これを75日ごとに食べたら一生死なないのでは? という屁理屈を考えてしまいました。それはさておき、この75日という数字には諸説ありました。

まず、野菜などの食物は、種類にもよりますが種を蒔いてから収穫するまでおおよそ75日なので、食べ物に関しては75日というのが一区切りという説。これは「人の噂も75日」という言葉があるように、75日を日数的になんらかの一区切りと考えるもので、もともとは中国の陰陽五行説からきているそうです。とりあえず、一区切り分の日数が伸びるよ! ということで75日と言われるようになったという説です。

それから、江戸時代からはじまった説。大伝馬町の牢屋敷の死刑囚が小塚原や鈴が森の刑場に引っ立てられる際に、町奉行が最後の温情として、囚人が食べたいものがあれば何でも与えてやるという決まりがあったそうです。あるときそこの囚人が食べたいと言ったのは時期はずれのものでした。現在のように冷凍保存などない時代ですから、奉行所のお役人が世の中のどこを探しても見つかりません。といって最後の望みには違いないからむやみに断ることもできない。そこで死刑執行は初物が出回るのを待つこととなり、囚人は75日間も延命できたという話です。

たけのこの話に戻ります。「旬」だからって、堀りたてだからって、わりと重量感のあるそれを最終の飛行機に乗せて持って帰ってきた、たけのこ。翌日の夕ご飯は、たけのこご飯と決めていました。朝、いつもより早起きをして、皮をつけたままのたけのこに切り込みを入れて、アクを抜くための糠と、エグみを抜くための鷹の爪と一緒に鍋に入れて、1時間ばかしぐつぐつとさせました。茹で上がったたけのこは、香りがいい! 香りについては、簡単便利重視で、真空パックされたたけのこの水煮とはまったく違う食材のよう。柔らかくなったたけのこを味見してみたら、味がないのに味がする(おかしい表現?)。甘いとかしょっぱいとかそういう表現ができない、春のテイストを感じました。

「旬」だからといって食べ過ぎには注意

「旬」であると珍重されるこの時期のたけのこ。私の同僚はこの季節になると中国地方の親戚から新鮮なたけのこが、アクを抜いた状態にされ宅配便で届くそうです。なんともうらやましい話。そして独り暮らしのその同僚宅には、今年はなんと3本分の立派なたけのこが届いたそうです。いやはやうらやましい話。いくら一度火を通してあるからといって、そこまで長持ちする食材でもないので、あらゆるたけのこレシピを参考に、ほんの2日程度で、3本のたけのこをひとりで消費した同僚。たけのこの贅沢食いにもほどがありますね。

そんな折、同僚がなぞの蕁麻疹と発熱で仕事を休みました。気の毒なことに、その蕁麻疹と発熱の原因はたけのこだったそうです。完全な食べ過ぎです。彼女の体が受け入れるたけのこの、限界を超えてしまったようです。

たけのこには、ヒスタミンという物質が含まれています。これは人体内では他の物質と結びついて不活性の状態で存在しますが、なんらかの刺激で過剰に遊離するとアレルギー症状を引き起こしてしまいます。

いくら「旬」だからといっても、寿命が伸びると言われていても、食べ過ぎはよろしくないですね。美味しいものは、物足りない程度に、ほどほどに。そして、また来年の「旬」を楽しみに、待ちましょう。次々とやってくる「旬」のものを食べてすごしたら、1年なんてすぐですから。

あ、最後にひとつ。たけのこは、漢字にすると「筍」、竹かんむりに「旬」と書きます。たけのこは成長がとてもはやく、10日間で竹に成長すると言われています……10日間? そう、10日間とは「旬」のことでした。一旬で竹になるから、「筍」。なるほど。おあとがよろしいようで。

(文・写真 黒川豆)

 


2015/5/1 更新

カテゴリ

タグ

新着記事