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【銚子人】community travel guide vol. 5「銚子人」が誕生〜「チーム銚子人」コアスタッフ4名の2年間

3月16日、夜。東京・赤坂にあるソーシャルデザイン専門組織 issue+design のオフィスの一角で、完成したばかりの、とある本の発送作業が行われていました。community travel guide vol. 5 銚子人

「銚子人 千葉県銚子市 明日に一番近い町の人々に出会う旅」。Issue+designが発行している観光ガイドブック「コミュニティトラベルガイド」シリーズの第5弾です。2015年3月19日から、全国の書店に並んでいます。関東最東端に位置する千葉県銚子市は、日本で一番早く初日の出を見ることができる海辺のまち。「銚子人」には、銚子に暮らす50組の魅力的な人々の紹介を中心に、銚子の魅力を伝える内容が、ぎゅっと詰まっています。

コミュニティトラベルガイドシリーズの特徴は、地域の魅力的な「人」との出会いや交流を楽しむ旅をコンセプトに編集されている事、そして、特集されている地域に住む人や縁のある人たちが主体的に本の制作に関わっている事です。ガイドブックの制作過程と完成した本の流通を通して、地域に新しい出会いが生まれ、新しい旅のスタイルを楽しむ人が増え、それらがひいては地域経済の活性化につながることを願って制作されています。community travel guide vol. 5 銚子人この日集まっていたのは、「銚子人」出版プロジェクトを企画・運営してきた銚子出身の4人のコアスタッフと、全国各地のコミュニティトラベルガイドの制作をサポートしているissue+designの白木彩智さん。community travel guide vol. 5 銚子人「本当にできたんだなぁ…って思います。」
「仕上がりがよくて嬉しいな。やっぱりものができてくると実感があっていいですね。」

プロジェクトの発足からおよそ2年。完成した本に触れるのは、コアスタッフの皆さんもこの日が初めて。小さな喜びを感じながら、寄付などを通してプロジェクトを応援してくれていた方々の元へ本を送ります。一般発売開始前に、538冊の「銚子人」が、スタッフと共に完成を心待ちにしていた支援者の手元へと旅立っていきました。community travel guide vol. 5 銚子人コアスタッフの皆さんは何故「銚子人」を作ろうと思ったのか?完成までの2年間、どんな事に取り組んできたのか?
「銚子人」を作ることで、それぞれのまちへの想いはどう変わったのか?お話を伺いました。

<結成「チーム銚子人」>

始まりは一人のスタッフの何気ない思いでした。2013年の4月。東京都内の建築関係の会社で働いていた力武若葉さんは、当時、コミュニティトラベルガイドの第2弾「福井人」の制作プロジェクトを知り、本を作るために活動している福井の人たちを応援していたそうです。

力武「地域の魅力的な人を、地域に縁のある人たちが自ら紹介する本を作る活動があると知って、とても素敵な取り組みだなと思いました。「福井人」のプロジェクトを応援しているうちに、自分の出身地である銚子でも、コミュニティトラベルガイドを作ってみたいと思うようになったんです。時々銚子に帰ると、まちから元気がなくなっているように感じ、何か自分にできるとはないかと思っていたこともきっかけのひとつでした。」

community travel guide vol. 5 銚子人

左:力武若葉さん/右:小足雄高さん

しかし、力武さんは銚子に住んでいるわけではなく、進学を期に銚子を離れていたため、地域の人たちとのつながりも薄かったそうです。本を出版するための資金もありませんでした。いずれにしても、一人でやれることではないと思い、まずは仲間を探す事から始めたといいます。銚子出身の人たちが作っているFacebookグループを見つけ、興味を持ってくれる人はいるだろうか…とドキドキしながら呼びかけたところ、この提案に3人のメンバーが手をあげました。銚子市役所で働いている公務員の小足雄高さんと、東京近郊で働いている会計士の藤本健二さん、デザイナーの大川武輝さんです。

小足「もともと銚子でもコミュニティトラベルガイドが作りたいなと思っていたんです。コミュニティトラベルガイド第一弾の「海士人」を作った島根県の海士町は、地域活性化でかなり注目されている自治体だったので、取り組みをずっと追っていました。「海士人」の出版を知った時に、こうした取り組みはこれからの地域の観光に絶対必要だなと思っていたところ、力武さんがやりたいと手を挙げてくれたので、あ、これは応援しなきゃと思い、参加したんです。」

community travel guide vol. 5 銚子人

左:藤本健二さん/大川武輝さん

藤本「僕も、銚子のために何かやりたいなと思っていて。でも当時はそういう漠然とした気持ちがあるだけだったんです。けど、力武さんが、コミュニティトラベルガイドを作りたい、という明確な目標をくれたので、僕も一緒に協力してやってみようかなと思って。」

大川「銚子に帰る度に、昔あったお店が無くなったりしていて寂しい感じがしてたんで、何かできないかなーとはずっと思ってました。当時は、地元の友達と一緒にまち起こしのイベントを開いたりしてましたね。そんな時にFacebookで若葉の提案を見て、いい取り組みだなと思って参加したって感じですね。」

全員が銚子出身というだけで、それまでこれといった接点のなかった4人でしたが、それぞれの想いが重なり意気投合。「銚子人」の出版に向けて動き出す事を決め、プロジェクトを運営する「チーム銚子人」が発足しました。community travel guide vol. 5 銚子人

<コアスタッフの地道な活動に共感と支援が集まる>

4人でできる事は全て手弁当でやる。としても、「銚子人」出版のために具体的にすべきことを検討すると、取材や記事の執筆、写真撮影、印刷や出版などにはプロの手を借りることが必要でした。出版までにかかるお金は、少なく見積もってもおよそ400万円。この制作資金を集めなければ、本は制作できません。

そこで4人は、地域の方々への説明会を開いたり、インターネット上で資金提供を募るサービス「クラウドファンディング」を利用して、オンラインとオフラインの両方で、プロジェクトへの寄付を募ることにしました。この本を作る過程で、自分たちも含めた銚子に縁のある人たちが新たに出会い直し、土地や、お互いの魅力を再発見するきっかけが作りたい。そうした機会を経て作る本を、銚子の魅力を伝えるものとして世に送り出してみたい。そのために「銚子人」が作りたいのだという気持ちを、地道に伝え続けたといいます。

次第に、その気持ちに共感してくれる、各地の銚子出身者や、銚子で地域の活動に熱心に関わっている人、地元の銀行で働く人などが集まってきました。そうした方々が、寄付に協力してくれそうな人たちに積極的に働きかけて下さったこともあり、1年間でおよそ500万円の制作費が集まりました。また、お金だけでなく、銚子の人や取り組みに関する様々な情報も集まってきたそうです。

community travel guide vol. 5 銚子人

クラウドファンディングの目標金額も達成

プロジェクトの発足からチーム銚子人をサポートし続けてきたissue+designの白木さんは、当時を振り返りながら、「銚子人」の特徴をこう語ります。

白木「「銚子人」出版はもしかすると、今までのコミュニティトラベルガイドの中で一番、地域の方々が苦労したプロジェクトなんじゃないかなと思っています。それは、発売前の時点で支援者の皆さんにお送りした本が538冊もある、ということの意味でもあるのですが、プロジェクトにお金を寄付してくださった人の数が、今までのコミュニティトラベルガイドの中で一番多いんですよ。
コアスタッフ一人一人が自分たちの足と普段の仕事以外の時間を使って、一軒一軒お願いをして回った数がものすごい数で、そこをどれだけ頑張ったかっていうのが、538冊という数に表れているなとも思っていて。まだ何もできていないものに対してお金をいただくというのは、すごくハードルが高い事だと思うし、大変な事だったと思います。
実際、応援の声だけでなく「そんなことをやって意味があるのか?」、「webサイトじゃ駄目なのか?」、「なんでそんなにお金がかかるのか?」と問われることも少なくなかった中で、それでもあきらめずに、一軒一軒お願いに回る事を積み重ねていったという事自体がすごく貴いし、本当に地道な努力だっただろうなと思うんですね。
その努力が、その後銚子で開いた、本の内容を考えるワークショップに参加して下さった人の数や、こうして完成した本をお届けする数も最初の段階では、今までのコミュニティトラベルガイドの中で一番多いという結果につながっていると思うんです。
なのできっと「銚子人」は、地域の人たちの間に広がっていく速さのようなものも、今までで一番速いのではないかなと思っていますし、そこが、これまでに出たコミュニティトラベルガイドの中で最も評価できるところだと、私は思います。」

community travel guide vol. 5 銚子人

白木彩智さん

これまでに出版された、コミュニティトラベルガイドシリーズ5冊全ての制作に関わってきた白木さんから見ても、今回「銚子人」のコアスタッフが積み重ねた努力は、相当地道なものだったと感じるようです。ちなみに白木さんが「銚子人」制作の過程で出会った、魅力的な銚子人は誰かと伺うと…

白木「私にとっては、この4人が1番印象的ですよ。だってすごいなって思いますよ、ほんとに。小足さんは会議のために毎回こうやって銚子から赤坂まで来てくれるし、藤本さんは自分で会社をやってるのに時間を使って一件一件ご挨拶にまわってくれるし、力武さんは人前に出るのがほんとは苦手なのに頑張って人前に出てるし、大川さんもウェブサイトを作ったり広報系もやてて、場を和ませようと明るい事も言うし…」
大川「え?俺がかるいって?(笑)」
白木「あかるい!皆さんを褒めてるんです、今!」

<共に本を作る過程で、地域の人に出会い直した2年間>

たくさんの応援に支えられて制作が決まった「銚子人」。銚子にゆかりのある人ならではの視点が詰まった本にするために、内容を考えるところから地域の人たちと一緒に始めました。FACEBOOKページや銚子の地域誌などを通して、「銚子人」の内容を考える2回のワークショップへの参加を呼びかけたところ、20代から70代までのおよそ80名の方々が参加して下さったそうです。

「出会いを楽しむ旅」をテーマに、各々が紹介したい銚子人や、特集したい事について意見を出し合っているうちに、創業からおよそ80年続く佃煮屋を切り盛りする女将さんや、イルカ好きが高じてイルカウォッチングのツアーを仕事にしてしまったご主人、い草を使ったバックやケースを企画し、新しい展開を試みている畳屋さん…などなど、コアスタッフだけではきっと気がつく事ができなかった、まちの中で生き生きと暮らすたくさんの魅力的な人の存在を知る事ができたといいます。

ワークショップでできた「銚子人リスト」や企画案など、基本の内容が決まると、編集部は取材・撮影・執筆に奔走。実際にお話しを伺ってみると、銚子の人々が持っている様々な物語には、ライターさんから「文字数は増やせないのか?」との苦情が出るほど、面白いものが満載だったそうです。

カメラマンの公募へ応募し、銚子人の制作に参加したという千葉県在住のカメラマン・関健作さんは、短い取材時間の中で銚子に暮らす人の魅力を引き出そうとする内に感じたことがあると言います。

community travel guide vol. 5 銚子人

関 健作さん

「結構、撮影時間が無かったんですよ。取材時間が1日に1時間も無いくらいで回る時とかもあって。だから短期間でコミュニケーションをうまくとっていかに笑顔を引き出すかとか、その場所の魅力が出るように撮ろうとは思ってたんですけどね。それで僕、思ったんですけど、銚子の人は銚子が大好きなんだなぁって感じましたね。地元愛めっちゃ感じました。だから銚子のことを語っていたら、どんどんいい顔になってたなぁと思って。やっぱり銚子の事とか、その人が銚子でやっている事っていうのを聞いていくうちに、どんどん、なんか嬉しそうになっていってたんでね。」

関さんが撮影した写真は2万枚以上。その中から編集部が、本に掲載する写真を厳選しました。これはいいと感じる人や風景の写真がたくさんあったそうで、ふと気がつけば、従来のコミュニティトラベルガイドに比べて、誌面における写真の占める割合が高くなり、読み物としてだけでなく、銚子の写真集としても楽しめる内容になっていたそうな。

ライターさんが文字数に苦情を言うほど面白い物語をもっていて、銚子の事や銚子で自分のしている事について話しているうちに笑顔になっていく人たち…。間接的に話を聞いているだけでも、なんだか銚子の人たちに会いに行ってみたくなります。

小足「プロジェクトを応援してくれる周りの人たちがこんなにいたんだというか、こんなに出てきてくれたんだっていうのは、そういうのが、やっぱり銚子って、土壌がまだまだあるんだなぁっていう感覚はありましたね。」

大川「自分が知らない人がたくさんいたから。あぁ、こんな人たちが頑張ってるんだ…って。プロジェクトを始めたばかりの頃は、将来どうなっちゃうんだろうこのまち、と思ってたけど、そのイメージが変わったっていうか。あ、銚子にはまだまだこうやって頑張って暮らしてる人がいるんだよなって、そう思えるようになった事がよかったかな。」

活動を支援してくれる人たち、銚子で自分の暮らしを楽しんでいる人たち。本の制作を通じて、すぐ近くにいたはずなのに気がつけていなかった人々に出会う事を繰り返すうちに、スタッフそれぞれの心の中にあった、銚子というまちへの印象も少しずつ変わって行ったそうです。

<今、コアメンバーそれぞれが思い描く「元気なまち」の姿>

こうして、銚子に暮らす人たちの魅力が112ページにぎっしり詰まった「銚子人」が徐々に出来上がっていき、2015年3月、ついに出版へとたどり着きました。

「銚子のために何かがしたい」と、4人でプロジェクトを発足してからおよそ2年間。「銚子人」の制作を経て、コアスタッフのみなさんは今、「まちが元気になる」とはどんなことだと考えているのでしょうか?

大川「地元にいる人が、地元の事についてもっといろいろな事を知るって事かな。
ワークショップをやってた時に出た意見のひとつで、「銚子人が小学校とかの教科書になって、社会科見学みたいなので、実際にその人に会いに行ったりするのもいいんじゃないですか?」って、それにすごいピンときて、確かに…みたいな。地元でこれだけ頑張ってる人がいるっていう事、それだけで子供たちが地元好きになるだろうし、この町に残ってても、いろんな事ができるんだって分かるし、そういう方につなげて行けたらいいなと思って、今すぐどうっていうよりは。
あとは、人の繋がりがもっと増えたらいいなぁって思うな。それも俺の感覚なのかもしれないけど、結構こう、人の繋がりが固定化しすぎちゃってる気がして。それがもっとフリーになったらいいなと思うし、そういう意味では、カフェとかできたらいいなって思う。「銚子人カフェ」みたいなものが。多分小足さんあたりがやってくれんじゃないかなって。」

小足「えぇ!? (笑)」

藤本「僕は個人的にはですね、何かをボランティアでやって一回で終わりっていうのでは、まちが元気になることには繋がらないと思っていて。
今までにない新しい事をやり続けられるような仕組みが備わって、それに地元の皆さんが積極的に関わっていって、それがどんどん大きくなっていって、それがまぁ地域の生活とかを豊かにしたり、楽しく生活できるとか、そういうのに繋がっていけるのがいいのかなと、僕なりには思っています。今回の銚子人の出版は、そのきっかけになればいいな、と思ってはいるんですけれどね。
僕個人の事を言うと、今、実際に銚子の代表的な海産物である金目鯛をつかった粕漬けを売り出すっていう事業をやりはじめたので、これからはさらに缶詰とか、色々な事業を、銚子の物を使って増やしていきたいと思っているので、それを通じて僕は銚子を元気にしたいと思います。自分のやり方、自分なりの主体的なやり方はそれだと思っています。」

力武「私は、まちが元気になるという事は、そこに暮らしている人たちが、お互いに気持ちよく過ごせる状態になるという事だと思うんです。今回「銚子人」出版までの活動を通して、銚子には、自分と自分の周りにある生活の姿をとらえて、その間に気持ちのいい関係をつくり出していこうと行動している人がたくさんいるんだなぁと思いました。
今回出来上がった「銚子人」が、普段銚子にいる人たちにとっては、すぐ近くにいるそんな人たちの存在を意識して、困ったときは助け合い、楽しい事は共有できる、お互いに気持ちのいい状態を作っていくきっかけにしてもらえたらいいなと思いますし、銚子に住んでいない人にとっても、このまちに住んでいるそんな人たちと出会うきっかけになってくれたら嬉しいです。」

小足「この3人のような方、銚子出身で銚子への思いを持っているような方々が、「これだったら俺にもできるかも」という、第二、第三のコミュニティトラベルガイドじゃないですけど、都会にいながら銚子になにか貢献したいという人だとか、あと、銚子にいる何か新しい事を始めたい若者たちとか、地域で挑戦する人たちを増やしていけたらいいんじゃないかと思っています。
多分、今までもそういう方々はいらっしゃったと思うんですけど、それでも活動的にうまく運ばなかったっていうのは、多分何かしら銚子ではやりづらい何かがあったからなんじゃないかなって気はするんですよね。それは我々公務員の応援体制もそうですけど。
今回ひとつ「銚子人」出版の試みが成功していったことで、そういう何かが多分、分からないですけど、変わってきているんじゃないかな、って気がしますので、地域で挑戦する人の活動を応援できるような方法を、これからも探していけたらいいなと思っています。」

それぞれの思い描く「元気なまち」は、「銚子人」を出版すればすぐに実現する、とは、誰ひとり思っていないようです。コアスタッフの皆さんは、この日も夜遅くまで、3月末に開催する「銚子人」の出版記念ツアーやイベントの企画について打ち合わせを続けていました。

ひとりのスタッフのふとした思いに3人の仲間が集まり、4人で一歩一歩進んできた道の先に生まれた一冊の本。この日、銚子在住の方々を中心とした支援者の元へと旅立って行き、その後、全国の書店から今も誰かの手もとへと旅立っている「銚子人」は、この春、明日が日本で一番近い町に、どんな出会いを連れてきてくれるのでしょうか?

もし、ふとそんなことが気になった、という方がおられましたら早速、「銚子人」を片手に、銚子に出かけてみる事をお勧めします。春の銚子に出会いの花を咲かせるのは、ひょっとしたら今あなたの感じた、そんな「ふとした思い」かもしれませんので。

(取材・写真 「銚子人」スタッフ)

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2015/3/27 更新

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