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「おせち」を食べて、2015年もよいお年を

12月になると、クリスマスケーキの予約とともに忘れてはならないのが、お正月料理の準備。その代表選手と言えるのが「おせち」。手作りするなら年末でも間に合うが、購入するなら12月半ばでもう予約が締め切られる、人気のものもある。少し早いが、今回のスタッフよもやまでは、「おせち」について綴ってみたいと思う。

「おせち」はもともと年に何度もあった

「おせち」は、御節供(おせちく)の略。節とは節句、つまり季節の節目のことで、その日に神様に備える料理のことを御節供と言ったらしい。文字を漢字で見ると意味がとてもわかりやすい。もともとは、人日(旧暦1月7日)、上巳(旧暦3月3日)、端午(旧暦5月5日)、七夕(旧暦7月7日)、重陽(旧暦9月9日)の節句すべてで「おせち」があったが、今では、お正月の料理のみをさすようになった。「おせち」の歴史は一番古いもので、弥生時代までさかのぼるという説がある。弥生時代といえば、日本人が稲作をはじめて米を食べるようになった時代。それまでは狩猟採集で暮らしていたが、自分で穀物を栽培して食べるようになると、作物の恵みを神様に感謝して備えるという行事が生まれた。これと後に中国から伝わった「節」の考えとがリンクして、奈良時代~平安時代に宮中行事に用いる「おせち」として誕生することになった。

庶民の間で一般的に食べられるようになったのは、食文化が最も開花した江戸時代といわれている。一説によると「江戸時代後期に、元々は朝廷内で行われていた宮中行事を庶民が生活の中に取り入れるようになったのがきっかけ」とのこと。

知ってる?「おせち」に込められた意味と願い

お正月に「おせち」を食べる理由は、上記のように神様に備える行事であるほかに、正月に台所を使うと火の神が怒るからとか、正月くらいは炊事を休もうとか、いろいろあげられる。普段台所であくせく働くお母さんもお正月はお料理を休み、家族全員そろって1年の健康と幸せを願って「おせち」を食べるという習慣は、日本全国で今日まで脈々と受け継がれてきている。

さて、「おせち」といえば重箱に詰められているのが一般的だが、正式には五段重なのだそう。家庭で作った場合は、地域や家庭のしきたりによってまちまちだが、基本的にお重は四段とされている。各お重に詰めるものも決められている。「四段の場合には、一の重には数の子、ごまめ、黒豆、昆布巻きなどの祝い肴、二の重には、かまぼこ、きんとん、伊達巻などの口取り、三の重には、海老、タイ、アワビなどの海の幸、与(四とは表さない)の重には、しいたけ、たけのこ、さといもなどの山の幸を入れます。尚、五段重の五の重は、将来、この重を満たすことができますように、との期待感を込めてから(空)にしておきます」(「食で知ろう季節の行事」高橋司/長崎出版)yomoyama1218-1

「おせち」の写真を見ていると、そういえば「おせち」を食べるときの正月用の箸は両端が細くなっていることがわかる。これは両口箸(りょうくちばし)と呼ばれるもので、年神様(としがみさま=毎年正月に各家庭に来訪する神様)と我々人間が、ともに食事をする「神人共食(しんじんきょうしょく)」という意味がある。「おせち」やお雑煮などのお正月の食べ物は、無事に新年を迎えられたことへの神様への感謝のお供え物という意味もあり、それを神と分かち合うことで素晴らしい年になるようにという願いを込めて両口箸が用いられる。

ここで、各お重に入る食材・料理に込められた意味や願いについて少し紹介したいと思う。有名なものから、へぇ~そうだったんだというものがあったが、皆さんは、どれくらい知っているだろうか。

一の重
数の子:卵の数が多いので子孫繁栄の意味
ごまめ:五万米という字をあてることから豊作を願っている
黒豆:黒く日焼けをするほどまめに働き、まめに暮らすようにとの願い
昆布巻き:喜ぶのごろ合わせによる縁起物

二の重
かまぼこ(紅白):形が似ているので日の出を表し新しい門出という意味と、赤色は魔除け、白色は清浄の意味
きんとん:金ということから、お金が貯まるようにという願い
伊達巻:巻物(昔の書物)に形が似ているので文化・学問・教養を持つことを願う縁起物

三の重
海老:ひげを付け腰を曲げている様子が老人に見えることから長寿を願っている
鯛:めでたいのごろ合わせによる縁起物
鰤:出世魚であることにあやかって出世を願っているyomoyama1218-nara

「おせち」に見る地域性

日本全国で食べられる「おせち」では、郷土料理も食べられるので、その地域性が現れている。郷土料理と呼ばれるものには、魚料理が多いと言われているので、とくに、三の重の海の幸がおもしろい。日本は島国で、海なし県もあるが、どの地域でも魚介類が食べられるからであろう。

一部しか紹介できないが、次のようなものがある。
秋田の鰰(はたはた)焼き、福島のいか人参、茨城の鮒(ふな)甘露煮、新潟の氷頭(ひず=鮭の鼻先の軟骨の部分)なます、岐阜の焼き鰯(いわし)、京都の棒鱈(たら)の煮物、大阪のにらみ鯛(たい)、島根の赤貝(さるぼう)の煮物、山口県下関の河豚(ふぐ)刺身、長崎の湯かけ鯨(くじら)など。

日本で食べられている魚介類は数えきれないくらいあるが、「おせち」を食べる元旦の前日、大みそかに食べる「年取り魚」は、鮭(さけ)・鰤(ぶり)が多い。「年取り魚」といえば、東日本は鮭、西日本は鰤と言われてきたが、現代でもその習慣が続いている。
かつては鮭も鰤も高級なのでしょっちゅう食べられるものではなく、「年取り魚」として年越しから正月の期間に食べる、冬の保存食という意味もあった。どちらも大きな魚で身が多いゆえ、塩を引いて保存すれば長い間食べることができた。現代は冷凍・冷蔵設備が整っているので、塩辛くして保存しなくても、いつでも新鮮な鮭や鰤を食べることができるが、やはり日本人にとってお正月に食べるものは特別で、伝統を伝えていこうという気持ちがあって、「年取り魚」として食べ続けられているのかもしれない。yomoyama1218-2

では、「おせち」の味についてはどうだろうか?
人気のおせち料理の具材にも違いがあるらしい。関東地方では「栗きんとん」や「伊達巻き」といった甘めの具材が人気なのに対し、関西地方では「ごまめ」「海老煮」「くわい煮」「たたき牛蒡」「棒鱈」といった具材が人気とのこと。なんとなく関西地方で人気の具材は、お酒のつまみになりそうなものばかりである気がする。

味付けについては、数の子で見てみよう。関東地方のかずのこは塩気たっぷりの濃い味付けになっていて、関西地方のかずのこは、薄口醤油と出汁で薄めに味を付けているとのこと。一般的に、西日本は薄味、東日本は濃い味と言われているが、「おせち」の味付けも、うどんのスープやおでんのだしに見られる違いに似ているのがおもしろい。

ちなみに、お正月料理の東西の違いとしては「おせち」以外に「雑煮」にとても顕著に表れているが、これについてはそれで1本の記事になってしまうので、次回に回させていただく。

最後に、海外にも「おせち」はあるのだろうかと思い、調べてみた。
欧米の国々では、元旦は祝日だが、日本のように年末年始に休暇を取る習慣がない。大みそかは家族や友人が集まってカウントダウンに盛り上がって新年を迎える。元旦は、乾杯をして新年を祝うちょっとしたお祭りのようなもの。1月2日からはいつも通りの生活に戻るのだ。キリスト教文化の地域では、正月ではなくクリスマス前後に休暇をとり、家族で集まってごちそうを食べるのが一般的な習慣だ。いわば七面鳥が「おせち」のようなものだろうか・・・・・・。また、フランスではブッシュ・ド・ノエル、ドイツではシュトーレン、ブラジルではプディングなどのお菓子がクリスマスの特別な食べ物で、あとは家族が好きなごちそうを作って食べる。
東南アジアや中国は旧暦の正月は料理を作って祝うが、1月1日は欧米と同じで、特別なものがあるわけではなく、お祭り騒ぎをして終わりという国が多い。

お正月の三が日分を年末に作ってお正月に備える食事、日本の「おせち」は、やはり日本独自の文化だった。
「おせち」は、実は作ったことがない。かといって買ったこともなかった。歴史や食材の意味などを調べたらとても興味深く、日本人にとってとても大切なものであることがわかったので、今年はぜひ買ってみようと思う。まだ間に合うだろうか?

(文・写真 黒川豆)


2014/12/18 更新

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