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〈熊本県〉杖立温泉「蒸し湯」活用、復活の狼煙!

1800年の歴史を誇る杖立(つえたて)温泉(熊本県小国町)が名物「蒸し湯」を活用した新たな誘客作戦に乗り出した。「九州・福岡の奥座敷」と呼ばれ、大勢の湯治客でにぎわったのも今は昔。近くの黒川温泉(熊本県南小国町)に人気で大きく水をあけられている。杖立温泉は女性をターゲットに、美容効果とレトロな雰囲気を売りにした「杖立流Neo湯治プログラム」を作り、復活を目指している。

杖立温泉は、熊本、大分の県境に位置する。歴史は神話の時代に遡る。朝鮮半島の新羅に出兵した神功皇后が帰国後に産気づいたところ、白髪の老人が現れ「これより東南に川をさかのぼると霊泉がある。これを汲み産湯に用いれば皇子は千歳の寿を保たれるであろう」と告げて消えてしまった。この霊泉こそが、杖立温泉の元湯という。

温泉街の真ん中には杖立川が流れ、福岡出身のシンガーソングライター、井上陽水氏の名曲「リバーサイドホテル」は、杖立温泉にあったホテル(現在は廃業)のことを歌っていたとされる。

わき出る温泉は弱食塩水で98~100度の高温。この高温の湯から生じる蒸気を使った天然ミストサウナ「蒸し湯」が杖立温泉の一番の特徴となっている。

昭和初期から中期ごろまで、多くの湯治客でにぎわっていた。ところが、平成に入ったころから、客足が遠のいていった。

昔ながらの湯治は2週間ほど滞在するスタイルが主流で、現代では、ほぼ不可能に近い。温泉治療も医療技術の発達で代替できるようになった。杖立温泉観光協会によると、杖立温泉を訪れる客は、ピーク時の平成元年は約35万人だったが、昨年は約15万人と半数以下になった。

杖立温泉が下降傾向にあった同じ頃、南東に約20キロ離れた黒川温泉は勃興の時期を迎えていた。

もともと20軒ほどの農家兼温泉旅館しかないひなびた温泉街だった黒川温泉。だが、昭和60年代から「街全体が一つの宿 通りは廊下 旅館は客室」を合言葉に、露天風呂と田舎情緒が満喫できる環境を整えた。

評判は口コミで広がり、一気に人気温泉街に。平成10年に旅行情報誌「じゃらん九州発」の人気観光地調査で1位に輝くと、テレビや雑誌も盛んに取り上げるようになった。現在は、アジア諸国や欧米からの来客も多いという。

杖立と黒川のブランド力の差は、広がり続けている。

リクルートライフスタイルがまとめた九州の人気温泉地ランキングでも、4位の黒川温泉に対し、杖立温泉は15位内にも入っていない。

「かつての活気を取り戻そう!」。杖立温泉が立ち上がった。

杖立温泉街は25年度、観光庁から「官民協働した魅力ある観光地の再建・強化事業」の認定を受け、国の補助金約1500万円を受けた。この補助金を元に、25年6月~26年3月末、新たな観光企画「杖立流Neo湯治プログラム」を作った。

同プログラムは「湯治=高齢者」というイメージを一新し、対象を女性に設定した。

温泉街に11軒ある蒸し湯では、適度な入浴時間を知らせるルミカライト(点灯時間10分)やペットボトル水をセットにした旅行商品「日帰り蒸し湯体験」(千円)などを販売。美容効果をうたい文句に、コラーゲンたっぷりの「蒸し料理」も開発した。

さらに、「背戸屋(せどや)」と呼ばれる路地裏も観光資源として活用する。各旅館が増改築を重ねた結果、杖立温泉の路地裏は素朴な生活感に包まれながら、不思議な雰囲気を醸し出している。背戸屋をカメラ片手に散策する人も増えてきたという。

この昭和の風情がたっぷり残る路地裏を、約30分かけて散策する「背戸屋めぐり」プランや、蒸気を使った調理場「蒸し場」で「黒豚おこわ」や「鶏やわらか蒸し」を作って食べるプラン(500円)も企画した。

熊本県観光課課長補佐の脇俊也氏は「女性はもちろん、男性向け化粧品が売れている時代なので、若い男性にも楽しんでもらえると思う。現代の湯治スタイルを全国に発信したい」と期待する。

また、県と杖立温泉観光協会は蒸し湯を全国にアピールするため、日本記念日協会(長野県佐久市)に、「蒸し」の語呂合わせで6月4日を「杖立温泉・蒸し湯の日」として申請。今月4日、認定を受けた。県や協会では、来年の6月4日に向け、記念イベントを催そうと盛り上がっている。

「九州・福岡の奥座敷」復活に向け、温泉街を挙げた試みが今後、さらに“熱く”なる。(産経ニュースより)


2014/6/16 更新

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