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〈日本の民話:和歌山県〉寝ているだけの仕事

「春眠暁を覚えず」
起きる時間は変わらないのに、冬の間は、起きる頃はまだ夜明け前。ところが、だんだんと春になってくると、起きた時にはもう夜が明けていて、何とな〜く寝坊した気分と、穏やかな気候が眠りから覚めるのを妨げますよね。
食事もシャワーもトイレもベッドの上で済ませられるように配慮された、“寝ているだけの仕事”があったら、皆さんはやりますか?

寝ているだけの仕事(和歌山県の民話より)

むかしむかし、あるところに、働くのが大嫌いな男がいました。
毎日毎日、男は家で寝てばかりいたので、ついにお金もお米もなくなってしまいました。
「何もかも、なくなってしまったな。まあ、働かないといけないのはわかるが、汗水たらして働くなんて、まっぴらごめんだ。どこかに、寝ているだけの仕事はないかなあ」
男が、そんな都合の良い仕事を探しに外を歩いていると、向こうから見せ物小屋の親方がやってきました。

「なあ親方、どこかに、寝ているだけで金もご飯ももらえる仕事はないか?」
それを聞いた親方は手を叩いて言いました。
「ある、ある、あるぞ! 実は今、そんな仕事をしてくれる人を探していたところだ」
「へえ。そいつはありがたい。親方、ぜひともわしに、その仕事をさせてくれ」
「いいとも、仕事場までついて来い」
男は喜んで、親方の後について行きました。

親方は町はずれで、ライオンやトラの見せ物小屋を開いていました。
「へえ、これが見せ物小屋か。おれはどんな事をすればいいんだ?」
「なあに、簡単さ。ただ、このおりの中で寝ているだけだよ」
「何だって?!ライオンやトラと一緒にか?!」
びっくりする男に、親方は声をひそめて言いました。
「心配するな。実はな、少し前に見せ物のトラが死んでしまって、困っていたところなんだ。そのトラの皮をはいであるから、お前さんはそれを着て、おりの中で寝ていてくれればいい」
「何だ、トラの身代わりか」
「そう言う事だ。ただ寝ているだけで、時々エサをもらい、おまけにお金までもらえるんだ。いい話だろう」
「確かに。なまけ者のおれにぴったりの仕事だな」
そんなわけで、親方はさっそく男にトラの皮を着せて、おりの中へと入れました。

トラの身代わりは確かに楽な仕事で、あっという間に見世物小屋が終わる最後の日となりました。集まって来た客たちに向かって親方が言いました。
「さあ、入った、入った。今日でもうお終いだよ。さて、そこで最後に、トラとラインとを一つのおりに入れて、けんかをさせて見せようではないか!」
そう言って親方は、隣のおりに入れていたライオンを、トラの毛皮を着た男のいるおりに連れて来たのです。
さあ、トラの毛皮を着た男はびっくりです。
男は逃げ出そうとしましたが、恐怖に足がすくんで動けません。

男は思わず、目をつむりました。
するとライオンが男(トラの皮をかぶった)のそばへ来て、小さな声で言いました。
「心配するな。わしも人間じゃ。ライオンの皮を着て、身代わりの仕事をしているんだ」
すると男は安心して、自分がトラになっている事も忘れて立ち上がると、
「いやあ、助かった。なんだ、あんたも偽物だったのか」
と、言ってしまい、二匹の猛獣がインチキだった事がばれてしまったんだとさ。(参考:福娘童謡集)寝ているだけの仕事


2014/4/15 更新

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